ASD(自閉スペクトラム症)とは
国際的診断基準の診断カテゴリーであるICD-10の広汎性発達障害(PDD)とほぼ同じ群を指しています(ちなみにスペクトラムとは「連続体」の意味です)。
典型的には、下記の3つの特徴が出現します。自閉スペクトラム症の人は、最近では100人に1~2人程度存在すると報告されています。男性は女性に比べて数倍多く、一家族に何人もいることがあります。
- 相互的な対人関係の障害
- コミュニケーションの障害
- 興味や行動の偏り(こだわり)
自閉スペクトラム症の症状
幼児期から、特性が現れ始め、典型的には1歳代で、「他人と目を合わせることが少ない」「指さしをしない」「他の子どもに関心が無い」などの様子が見られます。対人関係に関連するこうした行動は、通常の子どもでは急に発達する事もありますが、自閉スペクトラム症の子どもでは明確な変化が現れません。保育所や幼稚園に入っても一人遊びに興じて集団行動が苦手など、人との関わり方の独特さで気づくことがあります。
言葉を話し始めた時期に遅れは無くても話したいことしか口にせず、会話が成立しにくい傾向があります。また、電車やアニメ・キャラクターなど、自分の好きなことや興味のある対象には毎日何時間でも熱中したりします。初めてのことや、決まっていたことの変更は苦手で、そうしたことに対応するのに時間がかかることがあります。
思春期や青年期になると、他者との違いに気づいたり、対人関係がうまくいかないことに悩んだりし、不安・うつ症状を合併するケースもあります。就職して初めて、仕事を臨機応変にこなせないことや職場での対人関係などに悩み、自らいわゆる発達障害ではないかと疑い、医療機関を訪れる人もいます。子どもの頃に診断を受け、周囲の理解を受けて成長した人たちのなかには、特性自体は持続しているものの、能力の不均衡を上手に活用して、大いに活躍する人も見受けられます。
自閉スペクトラム症の治療
幼児期に診断された場合には、個別または小集団での療育によって、コミュニケーションの発達を促し、適応力を伸ばすことが可能です。療育を経験することによって新しい場面に対する不安が減り、集団活動への参加意欲が高まります。言葉によるコミュニケーションに頼り過ぎず、視覚的な手がかりを増やすなどの環境面の工夫をすれば、子どもの不安が減って気持ちが安定し、混乱が減ることが期待できます。
早期に診断をつけることは、保護者が子どもをありのままに理解し、その成長を見守っていくことに役立ちます。自閉スペクトラム症そのものを治す薬はありませんが、睡眠や行動の問題が著しい場合には、薬の服用について医師に相談すると良いでしょう。
思春期以降になって不安・うつ症状が現れた場合には、抗不安薬や抗うつ薬を服用すると改善することがあります。その場合にも、症状が現れる前に過大なストレスが無かったか、生活上の変化が無かったかなど、まずは環境をチェックし、その調整を試みることも大切です。
また、幼児期から成人期を通して、身近な人が本人の特性を理解することは重要です。それによって本人が安心するだけでなく、保護者から教師、上司などに対して特性を伝えることによって、本人に適した学校や職場環境が整いやすくなり、“支援の輪”の広がりが期待できます。